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脳と末梢臓器の生体電気信号を網羅的に記録する


1. 神経回路活動の大規模計測

  脳機能を形成する神経細胞(ニューロン)の活動の本態は「活動電位(スパイク)」と呼ばれる電気信号です。この活動はミリ秒単位の現象であり、次の神経細胞にシナプス電位を誘発します。一般的に「脳波」と呼ばれる電気信号は、これら多数の活動電位やシナプス電位の集合的な電位変化であり、様々な脳部位に電極を設置することで記録される信号です。ラットやマウスでは、脳に直接微小な電極を埋め込むことで、精度の高い脳波が記録されます。この電気信号から、脳の情報処理に重要な神経細胞集団の活動がどこで、どのように起こったか詳しく調べることができます。
  様々な部位での脳波を記録するためには、多数の電極を保持できる記録装置が必要です。図には、ラット頭部に固定し、慢性的に脳に電極を埋め込むための装置(マイクロドライブ)を示しています。こうした部品は3Dプリンタを用いて独自に設計しており、電極の数や配置を自由に変えることができるため、ほぼどの脳領域でも標的にできます。最大で20本程度の電極、96チャンネルの脳波信号を同時記録しています。
  実際に得られたマルチユニット記録のデータ例を図に示します。ここでは、電極周辺の局所場電位(local filed potential)から、動物の行動と相関する周波数成分や、数十個の神経細胞1つ1つの活動電位の時間的変化を抽出します。

2. 脳と末梢臓器活動の同時計測

  脳と末梢の各臓器は単独で活動するものではなく、互いに密接な連絡を取り、影響を及ぼし合っています。従って多くの生体反応は、中枢と末梢の双方向性の情報伝達を経た調節の結果として捉える必要があります。こうした生理現象を調べるために、私たちは、上記の脳波計測に加えて、心電図(electroencephalogram (ECG))、筋電図(electromyogram (EMG))、呼吸リズムといった生体電気信号を同時記録するための計測法を開発しました。ここでは、動物の頭部に設置したマイクロドライブにすべての信号を集約させて取り込みます。心電図計測では、心拍数変動や自律神経の活動状態を推定できます。また、背側頸部の筋電図計測では、覚醒/睡眠状態を推定できます。呼吸リズムは、嗅球表面からの電位記録によって、探索行動を反映したスニフィングなど呼吸頻度の素早い変化を検出できます。このような網羅的計測法を用いれば、中枢末梢連関を介した生体応答が、いつ、どこで、どのように生じるか、より直接的に解析し、定量的に評価することができます。得られた知見からは、中枢と末梢臓器の相対関係によって成り立つ全身システムを俯瞰的に解釈し、それらの機能的意味付けが可能となるものと期待されます。