Research

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脳機能を司る神経回路の情報解読を目指して


   脳では無数の神経細胞が複雑な回路を形成しています。私の研究目標は、多様な脳の情報処理が、神経回路のどのような活動によって実現されるか解明することです。この目標に向けて、多数の細胞の電気活動を同時に記録し、得られた大規模データを動物の行動パターンと結び付けながら解析します。


*図の中央は1つの神経細胞です。多くの人材・技術・アイデアに支えられ、研究が様々な分野へと成長していくイメージを表します。

1. 時空間と記憶

  大脳皮質の一部である海馬は、いつ、どこで、何が起こったか、という時間と空間の情報を含むようエピソード記憶に重要な脳部位であると考えられています。このようなエピソード情報の表象を担う神経細胞の研究が進められています。特に海馬では、動物個体が特定の位置にいるとき活動する「場所細胞(place cell)」であること発見され、これは2014年のノーベル医学・生理学賞の対象となり、大きな注目を集めました。 さらに近年の研究では、海馬にて特定の脳波が発生すると、自分の現在位置を担当する場所細胞だけでなく、多数の神経細胞の活動が同時に含まれることが明らかになってきました。この活動が、単純な空間表象のみならず、将来の行動設計や連合学習など、複雑な脳機能にも関与するのではないかと考えられています。私たちは、この課題を深く追究するため、マウスやラットを用いて、様々な行動課題を設計し、海馬神経細胞の活動パターンを大規模計測・操作することで、記憶を基にした「予測、連想、順応」など複雑な脳機能を司る神経信号の解読に挑戦しています。


 

2. 多様な神経細胞

  大脳皮質を構成する神経細胞には、グルタミン酸を伝達物質とする興奮性錐体細胞や、GABAを伝達物質とする抑制性介在細胞など、多様な種類が存在します。それぞれの神経細胞種は、活動の生じやすさ、活動の速さや持続時間、伝達物質の使い方などが少しずつ異なっており、それらが協調して働くことで、正しい情報処理機能が発揮されると考えられています。
  私たちは、このような神経細胞の個性を無視することなく、個々の細胞がどのような脳機能と関連するか調べています。また、再生医療研究に用いられるiPS細胞などを活用し、まったく異なる種類の細胞が、どのように既存の神経回路と相互作用するか解析しています。  


 

3. 身体と脳の相関

 
   脳と末梢臓器は、自律神経系や内分泌系を介して密接に繋がっています。従来の研究の多くは、各臓器1つに特化して調べてきましたが、今後は多臓器間の繋がりを考慮し、システム生理学的な観点から各臓器の生理現象を捉える必要があると考えています。この研究課題に取り組むため、脳波と同時に、心電図や呼吸リズム、迷走神経活動などの末梢臓器活性を調べる方法を新たに開発しています。 ある生体部位の活動が変動した場合に、その他の中枢-末梢活動がどのように変動するか網羅的に解析することを目指しています。
 


 

4. メンタルケア

 
    動物がストレス応答を経験すると、生体機能に様々な不調が発現します。現代の人間社会では、ストレス応答の大半は、脳を起点とした心因性由来の生体反応です。すなわち、脳が外界の環境をどのように受容するかによって、その後のストレス応答が決定されることになります。多くの場合には、順応または機能破綻が生じます。
    私たちは、こうした精神的ストレス応答について、全身神経がどのような情報伝達を行い、また、それらがどのように時間変化するか調べています。これまでの研究にて、1つの動物個体において、ストレス応答を司る複数脳領域の神経活動、および自律神経活性の両方を慢性的に計測できる神経網羅解析法を構築しました。本法を用いて、ストレス応答の経過を詳細に記録し、脳ではストレス経験がどのように記憶されるか、また、記憶が過剰に想起されたときには、どのように身体反応が影響を受けるか解析しています。こうした研究により、心的状態の変化という観点から、各末梢器官の機能不調のメカニズムを理解することを目指しています。