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Selected Publication


*Corresponding Author, +Equal Contribution



  • T. Okonogi, N. Kuga, M. Yamakawa, T. Kayama, Y. Ikegaya, T. Sasaki*
    Stress-induced vagal activity influences anxiety-relevant prefrontal and amygdala neuronal oscillations in male mice.
    Nature Communications, 15: 183, (2024)

     迷走神経の活動に対応して、脳の前頭前皮質と扁桃体で見られる脳波パターンの強弱が明確に連動することを見出した。ストレスを負荷したうつ様状態のマウスでは、このような連動は観察されず、こうした病態生理変化は、迷走神経の電気刺激により、回復することが確認された。迷走神経と脳の連動が、ストレスやこころの状態を理解するために重要であることを示唆し、より正確な精神疾患治療法の考案に繋がると期待される。


  • S. Yagi, H. Igata, Y. Ikegaya, T. Sasaki*
    Awake hippocampal synchronous events are incorporated into offline neuronal reactivation.
    Cell Reports, 42: 112871, (2023)

     経験中に生じる海馬の神経同期活動(Awake ripple)は、その後、経験した情報に関連した神経活動を再生するために必要であることを示した。このような経験後の活動パターンは、海馬における記憶の固定化のプロセスに重要な役割を担うと考えられる。


  • N. Kuga, R. Nakayama, S. Morikawa, H. Yagishita, D. Konno, H. Shiozaki, N. Honjoya, Y. Ikegaya,
    T. Sasaki*
    Hippocampal sharp wave ripples underlie stress susceptibility in male mice.
    Nature Communications, 14: 2105, (2023).

     精神的なストレスを経験した後、記憶を脳内に固定するための海馬の同期活動(リップル)を多く発生させると、その後にうつ様の精神症状を生じやすいことを見出した。また、こうしたリップルの発生頻度を、ストレス後の運動などによって軽減すると、精神症状の発症が抑制されることを示した。記憶能力や性格傾向の側面から、ストレス応答性の精神症状を考える重要な契機となる。


  • N. Kuga, R. Abe, K. Takano, Y. Ikegaya, T. Sasaki*
    Prefrontal-amygdalar oscillations related to social behavior in mice.
    eLife, 11: e7842, (2022).

     前頭前皮質や扁桃体の特定の周波数帯の局所場電位信号が、社交性を示す時に顕著に増減することを見出した。こうした変化は、慢性的なストレスでうつ状態になったり、自閉スペクトラム症様の社会性が低下した状態では、ほとんど観察されなかった。逆に、これらの活動を正常に戻すと、社会性の行動が回復した。以上から、こうした脳の活動パターンが、社会性行動の基盤メカニズムとして働くことを示した。


  • Y. Nishimura, Y. Ikegaya, T. Sasaki*
    Prefrontal synaptic activation during hippocampal memory reactivation.
    Cell Reports, 34(12):108885, (2021).

     海馬場所細胞の集団活動パターンと前頭前皮質のシナプス入力パターンを同時に比較し(世界初のin vivoマルチユニット記録とパッチクランプ記録の融合)、特定の海馬の空間記憶情報の再活性化に応じて、前頭前皮質のシナプス入力が強まることを見出した。生きた脳において、機能的なシナプス伝達の実態を捉えた初めての研究である。




  • Y. Shikano, Y. Ikegaya, T. Sasaki*
    Minute-encoding neurons in hippocampal-striatal circuits.
    Current Biology, 31(7):1438-1449, (2021).

     新しい分単位の時間計測を必要とする行動課題を確立し、海馬と線条体の神経細胞が、分単位の時間情報をコードできることを証明した。従来のような秒単位よりも長い時間長の神経活動を記述した点で新規性がある。脳が時間情報を処理するために重要な神経メカニズムと考えられる。


  • H. Igata, Y. Ikegaya, T. Sasaki*
    Prioritized experience replays on a hippocampal predictive map for learning.
    Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 118(1): e2011266118, (2021).

     海馬の神経細胞が、学習した空間情報や、将来の行動を効率的に行うための情報を優先順位付けして再生(リプレイ)することを示した。神経科学研究のみならず、機械学習を効率的に進めるための計算アルゴリズムとしても重要な機能と考えられる。


  • Y. Aoki, H. Igata, Y. Ikegaya, T. Sasaki*
    The integration of goal-directed signals onto spatial maps of hippocampal place cells.
    Cell Reports, 27: 1516-1527, (2019).

     新しい行動タスクを用いて、海馬の場所細胞の発火は、特定の目的志向行動によって増大することを示した。また、こうした目的志向型の情報入力にはコリン作動性シグナルが関与することを示した。


  • T. Sasaki+, VC. Piatti+, E. Hwaun, S. Ahmadi, JE. Lisman, S. Leutgeb, JK. Leutgeb*
    Dentate network activity is necessary for spatial working memory by supporting CA3 sharp-wave ripple generation and prospective firing of CA3 neurons.
    Nature Neuroscience, 21: 258-269, (2018).

     複数の報酬の場所を覚えるような迷路課題をラットに解かせて、海馬-歯状回が作業記憶に必要な脳領域であることを示した。また、海馬の神経細胞は、保持すべき空間作業記憶に対応して、活動パターンを動的に変化させることを示した。



  • T. Sasaki, S. Leutgeb, JK. Leutgeb*
    Spatial and memory circuits in the medial entorhinal cortex.
    Current Opinion in Neurobiology, 32: 16-23, (2015).

     2015年までに解明された、海馬の場所細胞(place cell)と嗅内皮質の格子細胞(grid cell)の知見についての総説。これらの細胞の発見は2014年のノーベル賞の対象になった。 一般に、海馬の場所細胞は、様々な格子細胞からの入力の統合によって形成されると考えられてきたが、このようなシンプルなモデルだけでは説明できない知見が得られつつある。







  • K. Beppu+, T. Sasaki+, KF. Tanaka, A. Yamanaka, Y. Fukazawa, R. Shigemoto, K. Matsui*
    Optogenetic countering of glial acidosis supressees glial glutamate release and ischemic brain damage.
    Neuron, 81, 314-320, (2014).

     光感受性分子ChR2,Archを細胞内pHを操作するためのツールとしてアストロサイトに適用した。ChR2の活性化により、アストロサイトを酸性化すると、グルタミン酸の放出が起こる。このようなグルタミン酸放出は、虚血時の神経細胞死と模倣していると考えられる。 逆に、Archの活性化により、虚血時のアストロサイトの酸性化を抑制すると、神経細胞死を抑制できることを示した。



  • T. Sasaki*, N. Matsuki, Y. Ikegaya
    Targeted axon-attached recording with fluorescent patch-clamp pipettes in brain slices.
    Nature Protocols, 7: 1228-1234, (2012).

     蛍光ガラス電極を用いた軸索パッチクランプ記録法について、その詳細な実験プロトコールを述べた論文。また同様の技術を用いて、軸索内を伝播する活動電位を解析したところ、細胞体において増幅した活動電位は、軸索の空間的配置に依存して元の形に減衰し、次の細胞へのシナ プス出力に影響を及ぼすことを見出した。



  • T. Sasaki+, K. Beppu+, KF. Tanaka, Y. Fukazawa, R. Shigemoto, K. Matsui*
    Application of an optogenetic byway for perturbing neuronal activity via glial photostimulation.
    Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 109: 20720-20725, (2012).

     遺伝子ノックイン技術を用いて、テトラサイクリン制御性の遺伝子発現システムを改良し、ChR2 をアストロサイトに選択的に発現した遺伝子改変マウスを作製した。これらの小脳アストロサイトを光刺激すると、グルタミン酸の放出、小脳プルキンエ細胞の AMPA受容体を介して、神経活動が誘発されることを示した。また平行線維-プルキンエ細胞間のシナプスにおいて、長期可塑性が誘発され、個体行動の解析から、小脳依存性の運動学習を制御するのに十分であることが示された。



  • T. Sasaki, N. Matsuki, Y. Ikegaya*
    Action potential modulation during axonal conduction.
    Science, 331: 599-601, (2011).

     活動電位の発生および伝播は、イオンチャネルの活性化に依存し、全か無かの法則のような単純な現象では記述できない。つまり軸索演算は、教科書的な理解に反して、アナログ 的な振る舞いを示し、これはニューロンの出力特性として重要である。しかし、大脳皮質の軸索は微細(直径 1 マイクロm 以下)であるため、電気活動の計測は極めて困難とされる。この問題解決を試み、蛍光タンパク質をコーティングした蛍光パッチクランプ電極を用いて、軸索か ら効率的にパッチクランプ記録を実現する新手法を開発した。 この技術とグリア細胞に関する生理学的知識を融合し、軸索を伝導する活動電位がアストロサイトにより調節されることを発見した。1つの軸索が膨大数のシナプス出力を担っていることを考えると、この現象は、出力先の回路演算を決定しうる影響をもつ可 能性がある。 以上の知見は、計算素子としてのグリア細胞の重要性を強調し、また脳回路演算の時空間的な多様性と安定性を考察する1つの手掛かりになると推察される。